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神戸家庭裁判所 昭和57年(少ハ)2号 決定 1982年9月04日

少年 R・S(昭三七・五・二五生)

主文

本人を昭和五七年一二月一三日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

(申請の要旨)

本人は、昭和五六年九月一四日当裁判所において中等少年院送致の決定を受け、浪速少年院に収容され、昭和五七年四月二四日に少年院法一一条一項但書による収容継続決定がなされたものであるが、同年九月一三日をもつて同決定による収容期間が満了となる。

本人は、院内において概ね順調な処遇経過をたどり、同年八月二日一級上に進級し、一応自己の教育目標を達成し、木工科での職業訓練も問題なく終了する見込みであるが、職業訓練課程としての本少年院の教育処遇上、上記収容期間満了以前に仮退院させることは困難で、満期退院が予定されている。

ところで、本人の実父母は本人出生直後行方不明となり、その後本人は一時期養父母の手で養育されてきたが、現在、養母は家出、養父は殺人罪により服役中の状況であり、本人にとつて社会内における保護環境は極めて劣悪な状態である。

そこで、出院後も適切な保護と指導を加えることによつて再非行に陥る危険を防止し、院内処遇により体得した社会適応性を更に向上させ、併せて環境の調整を図るため、更生保護会への帰住を検討した結果、財団法人○○寮(大阪府泉佐野市○○×丁目×番×号)への帰住が見込まれ、同寮の自動車整備工場の塗装班に就労が内定したのであるが、満期退院の場合、国の援助が受けられず少年の経済的自立が困難になり、また他の在寮生が全員国の援助を受けていることから本人にひがみを生じ、更生の意欲を殺ぐなど好ましくない影響を生ずるおそれがある。

従つて、本人が上記○○寮に帰住し、自立のための生活基盤(更生資金の準備等)を整えるためにも、三か月間を保護観察の期間としたく、昭和五七年一二月一三日までの収容継続の決定を求める。

(当裁判所の判断)

一  本人は、昭和三七年五月二五日大阪で出生したが、実父母はその直後行方不明となり、養護施設で養育されたあと、小学校入学前から養父母の許で育てられたが、やがて養母は家出し、現在も行方不明であり、養父は殺人事件を起こし、昭和四九年一二月五日大阪地方裁判所で懲役一〇年の刑を受け、確定し、現在服役中である。

そうしたなか、少年は、昭和四六年九月養護施設に入所し、同施設から小・中学校に通い、高校にも進学したが、一年で中退し、その後一年余り塗装店に住込就労して頑張つていたが、そこを退職してからは、職を転々とするなかで生活費に窮し、窃盗事犯四件を敢行し、昭和五六年一月一二日当裁判所で試験観察(補導委託)の決定を受けた。

しかし、三か月後委託先の従業員から盗みの嫌疑をかけられて同所を飛び出し、その後は暴力団事務所に出入りし、入れ墨を入れ、数か月にわたつて正業に就かぬ等生活が乱れ、再び生活費等に窮して窃盗三件を重ね、同年九月一四日当裁判所において、中等少年院送致の決定を受けた。

二  浪速少年院における本人の処遇経過は、昭和五七年四月一三日に指示無視、生活態度不良で課長説諭を受け、同年五月一七日木工科の職業訓練用のシンナーを不正に寮内に持ち込んだ件により謹慎七日の懲戒処分を受けたほかは比較的良好であり、同年八月二日一級上に進級し、昭和五六年一一月二日以降木工科に編入されて受けてきた職業訓練も問題なく終了する見込みとなつている。また、少年院収容当時の対人、対社会不信感による対人不適応感も改善されてきている。

三  しかしながら、上記のごとく退院後の受け入れ体制は悲惨な状況で帰住先もないこと、少年院収容前の本人の生活の乱れ、現在においても対人関係を気にする等自我の弱さがやや窺われること等に照らすと、出院後もしばらくは適切な指導、保護が望まれるところであり、また、さしあたり更生保護会の帰住を検討せねばならず、そこにおいて経済的自立に向けて生活基盤を整える(更生資金の準備等)ことにも努めさせねばならない。(なお、申請理由のとおり財団法人○○寮への帰住調整が図られており、少年においてもこれを希望している。)

従つて、国からの経済的援助の下で更生保護会での生活を送り、経済的自立に必要な資金を今後の就労(○○寮の自動車整備工場における塗装工)によつて獲得するに必要な期間をも考慮しつつ、安定した生活環境の中で社会的自立を促し、再非行の危険を防止するため、保護観察期間として三か月が必要と考えられる。よつて、遅滞なく少年を仮退院させ保護観察に付することを期して、本件申請どおり、収容継続の期間は昭和五七年一二月一三日までとすることが相当であると思料する。

四  よつて、少年院法一一条四項、少年審判規則五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 以呂免義雄)

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